前回までのコラムでは、訴訟提起前のさまざまな交渉のフェーズ(内容証明郵便、返済条件の交渉、公正証書の作成)についてご紹介しました。今回は、一方踏み込んだより強い手段である「訴訟提起前の預金口座の仮差押え」を紹介します。
債務者がある程度の預金残高があるにもかかわらず、預金を他の債権者への支払いに充てたり、自分の他の生活費に充てるなどの目的により温存しているケースがあります。そのような理由により債務者が当方への支払いを渋っている場合には、「訴訟提起前の預金口座の仮差押え」が大きな威力を発揮します。
仮差押えが成功すると、債務者は預金口座からお金を引き出すことができなくなります。そうすると、債務者は他の債権者への支払い等ができなくなり、当方との交渉のテーブルにつかざるを得ません。「当方の条件を飲むのであれば仮差押えを解除してもいい」という強めのスタンスで交渉に臨むことができるケースもあります。債務者がこのように首尾よく交渉に応じない場合であっても、当方としては、淡々と訴訟提起をして勝訴判決を得れば、仮差押えをしておいた分を丸々回収することができます。
逆に、口座の仮差押えをしないまま訴訟提起をすると、訴訟が終わるまでの間、債務者は自由に口座からお金を引き出すことができてしまいます。悪意のある債務者であれば財産隠しができてしまいますので、もしそうなった場合には、勝訴判決を得ても実際に回収が全くできないという最悪のシナリオもありえます。
このように大きなメリットのある仮差押えなのですが、ここで少しだけ逆の立場(債務者の立場)に立ってみて考えてみましょう。通常の訴訟であれば、債務者の反論も十分に聞いた後に判決が出ます。しかし、仮差押えの場合には、債権者の言い分のみで仮差押えの決定が出ます。裁判所が債務者の言い分を聞くことはありません。なぜならば、債務者の言い分を聞こうとすれば、仮差押えの手続きが進んでいることが債務者に知れてしまい、仮差押えの正式決定が出る前に債務者が口座からお金を全部引き出してしまう可能性もあるからです。
そのような理由から、裁判所は債権者が持ってきた資料だけで判断せざるを得ません。極端な話、債権者が嘘の資料を持ってきた場合、何の落ち度もない債務者が一方的に口座を凍結されるというケースが起こる可能性があります。そのような悪用を防ぐため、仮差押えを申し立てる際には、債権者にはかなりの額の保証金を法務局に納付することが求められます。だいたいの目安として、債権額の20%から25%前後となることが通常です(例えば、債権額が500万円であれば、だいたい100万円から125万円前後の保証金を用意しなければなりません。)。
もちろん、当方の言い分に間違いがなければ保証金は後から戻ってきますので、保証金さえ工面できるのであれば、仮差押えは債権回収においてとても強い武器の一つといえます。仮差押えのご依頼は33万円(税込)〜からお受けしております。どうぞお気軽にご相談ください。