前回のコラムでは、訴訟提起から判決に至るまでの一連の流れをご説明しました。今回は、長期化しがちな訴訟を途中で終わらせる「訴訟上の和解」をご説明します。
「和解」という言葉の響きから、「仲直り」のイメージを持たれる方も多いのですが、訴訟上の和解はいわば「訴訟の取下げを条件に新たに締結する契約」です。実際に仲直りをする必要はありません。「新しい契約」の中身は、互いに希望する案を出し合い、条件面の交渉により決めていきます。条件面の交渉は裁判所が間に入って取り持ってくれます。条件面の折り合いがつけば和解調書という書面を作成して訴訟が終了となります。和解に応じるかどうかは双方ともに全くの自由で、和解に応じなかったとしても何も不利益はありません。条件面の折り合いがつかなければ和解の話は流れ、引き続き裁判が続行されるだけです。
訴訟上の和解をするメリットとしては、「訴訟が早く終結することによる時間的、費用的、心理的負担の軽減」「判決になった場合の全面敗訴リスクの回避」「判決で勝訴した場合であっても相手方に控訴され高裁で訴訟が続行されるリスクの回避」の3点が挙げられます。これらに加えて、債権回収の特有のメリットとして、「連帯保証人や抵当権などの担保を柔軟に設定できること」「判決よりも訴訟上の和解の方が実際の回収見込みが高いこと」などが指摘されています。
一方で、訴訟上の和解のデメリットとしては、「全面勝訴の場合よりも譲歩した条件となること」が挙げられます。契約書や借用書が揃っており敗訴リスクが小さければ譲歩の幅は小さくてよく、逆に契約書や借用書が揃っておらず敗訴リスクが無視できないケースであれば譲歩の幅も大きくせざるをえないというのが基本的な考え方です。
和解に応じずに判決をもらいにいくのは、時間と費用とリスクをかけて100点満点を狙いにいく戦略です。和解に応じるのは、時間と費用とリスクを抑えて及第点を取りに行く戦略です。どちらを選ぶかは人それぞれの価値観次第と思います。羽生結弦選手がリスクを承知で4アクセルに挑戦してメダルを逃した北京オリンピックの演技について、「無難に3アクセルでまとめればメダルを取れたかもしれない」という批評とほぼ同じ構造で、どちらが正しくてどちらが間違いという話ではないと思います。
このような理由から、和解に応じるかどうかは実に悩ましいところです。私のスタンスとしては、「和解に応じた方がいい」と依頼者の方を説得することはしません。それをやってしまうと、依頼者の方から見て「どちらの味方かわからない」という誤解を生みかねないからです。とはいえ、和解に応じるべきかどうか、意見を求めていただければ思うところを率直に存分にお伝えします。どうぞご遠慮なくご相談いただければと思います。
次のコラムでは、訴訟終了後に預金の差押えや財産調査を進めていく段取りを詳しくご紹介する予定です。